
写真:lumoplank, Wikimedia Commons(CC0)/霜に縁どられた紅葉のイロハモミジ(2025年11月、山梨県・河口湖)
晩秋の凍結した登山道|霜・アイスバーンでの歩き方とチェーンスパイク・軽アイゼンの選び方
10月中旬から11月の山では、晴れた朝ほど登山道に霜や薄い氷が張り、転倒や滑落の原因になります。気象庁の平年値や長野地方気象台の霜の解説、長野県警察・富山県警察の秋山情報、メーカーの取扱説明書をもとに、凍りやすい場所と時間帯、凍った道の歩き方、チェーンスパイク・軽アイゼン・10本爪アイゼンの使い分け、着ける・引き返す判断の目安を解説します。
目次
- 晩秋の朝は「どこかが凍っている」と考えて歩く
- 10月でも登山道が凍るのはなぜ?
- 麓と山の上では、朝の気温がまったく違う
- 晴れて風の弱い夜ほど、地面は気温より冷える
- 晩秋の遭難は「転倒・滑落」が上位
- 凍りやすい場所と時間帯
- 時間帯:日の出前後と、日が傾いてからの日陰
- 場所:北向きの斜面、樹林の日陰、谷や沢沿い
- 路面:木道、木の根、平らな岩、水がしみ出す場所
- 昼は「霜柱のぬかるみ」にも注意
- 凍った道の歩き方
- 基本は「小さな歩幅」と「靴底全体で置く」
- 登りと下りで、気をつけることが変わる
- ストックは「バランスを助ける道具」として使う
- チェーンスパイク・軽アイゼン・10本爪アイゼンの違い
- チェーンスパイク:凍った緩い道で「念のため」の1組
- 軽アイゼン(4〜6本爪):雪が乗り始めた緩い斜面に
- 10本爪以上のアイゼン:ここから先は「雪山」
- 買う前・使う前に確かめたい3つのこと
- いつ着ける?いつ引き返す?
- 着けるのは「凍った区間に入る前の、平らで安全な場所」
- 引き返す目安
- 滑り止めとあわせて持ちたいもの
- 出発前の5つの確認
- 参考リンク
晩秋の朝は「どこかが凍っている」と考えて歩く
先に結論をまとめます。10月中旬から11月にかけての山では、晴れて風の弱い日の朝ほど、標高の高い場所や日陰の登山道に霜や薄い氷が残ります。紅葉の写真では明るく見える山でも、足元は冬の入口に入っていることがあります。
対策のポイントは次の4つです。
- 凍りやすい時間と場所を知っておく:早朝、北向きの斜面、樹林の日陰、木道や平らな岩の上
- 凍った道では歩き方を変える:歩幅を小さく、靴底全体で地面をとらえ、ストックで支点を増やす
- 滑り止めを1組ザックに入れておく:晩秋の一般道ならチェーンスパイクか軽アイゼンが中心。急斜面が凍ったり雪が積もったりした山は、10本爪以上のアイゼンが必要な「雪山」として考える
- 滑り止めでは足りないと感じたら引き返す:とくに、滑った先に崖や急斜面がある場所
この記事では、気象庁や長野地方気象台の解説、長野県警察・富山県警察の秋山情報、メーカーの取扱説明書などをもとに、この4つを順番に説明します。
10月でも登山道が凍るのはなぜ?
麓と山の上では、朝の気温がまったく違う
気象庁の予報用語では、高度が上がるにつれて気温が下がる割合(気温の減率)は、普通100mにつき0.5〜1℃とされています。麓の天気予報で「最低気温10℃」と出ていても、標高が1,000m高い場所では5〜10℃ほど低くなる計算です。
実際の観測値でも、その差ははっきりしています。気象庁の平年値(1991〜2020年の平均)から、長野県の2地点と富士山の日最低気温を並べると、次のとおりです。
| 観測地点 | 標高 | 10月の日最低気温(平年値) | 11月の日最低気温(平年値) |
|---|---|---|---|
| 長野(長野市) | 約418m | 10.3℃ | 3.4℃ |
| 軽井沢 | 約999m | 6.3℃ | -0.2℃ |
| 富士山(山頂) | 約3,775m | -5.1℃ | -11.8℃ |
これは1か月の平均なので、月の後半はさらに冷え込みます。軽井沢の10月の値(6.3℃)をもとに、100mあたり0.6℃で単純に計算すると、標高2,000m付近の10月の朝はおよそ0℃前後になります。紅葉の名所になる標高1,500〜2,500mの山は、まさにこの温度帯にあたります。
富山県警察の「秋山情報」でも、富山県内の高山は10月に入るといつ降雪があってもおかしくない時季になり、降雪がなくても標高約2,450mの室堂平では朝晩の気温が10℃を切ることも多いと注意を呼びかけています。
晴れて風の弱い夜ほど、地面は気温より冷える
もうひとつ知っておきたいのが、霜ができる仕組みです。長野地方気象台の解説によると、移動性高気圧に覆われて晴れ、風が弱い夜は、地面の熱が空へ逃げていく放射冷却で地表付近がよく冷えます。このとき夜間の地面の温度は気温(地上1.5mで観測)より低くなるため、気温が3℃以下になると霜が降りることが多くなるとされています。また、盆地や谷底は冷たい空気がたまりやすく、霜が降りやすい場所だと説明されています。
つまり、天気予報で山の朝の気温が3℃前後と読めるときは、気温が0℃を下回っていなくても、地面や木道の表面は凍っているかもしれないということです。秋の晴天は登山日和ですが、その翌朝は足元が冷え込みやすい日でもあります。
晩秋の遭難は「転倒・滑落」が上位
長野県警察の「令和8年 秋山情報」によると、令和7年9〜11月に長野県内で起きた秋山登山の遭難83件のうち、転・滑落が22件、転倒が21件で、この2つで半数を超えています。原因としては、浮き石を踏み外す、木の根につまずく、濡れた岩場でスリップするといった例が挙げられています。
全国でも傾向は同じです。警察庁の「令和7年における山岳遭難の概況等」では、遭難者3,623人を態様別にみると、道迷い(30.9%)に次いで転倒が19.2%、滑落が17.3%を占めています。凍結は、もともと多いこの「転ぶ・滑る」事故を、さらに起こりやすくする条件だといえます。
凍りやすい場所と時間帯

時間帯:日の出前後と、日が傾いてからの日陰
1日のうちで地面がいちばん冷えるのは、放射冷却が続いた夜明け前から日の出直後です。早出をして朝のうちに稜線へ上がる計画では、登りはじめから凍った区間を歩くことになります。
また、晩秋は太陽の高さが低く、昼でも日が当たらない場所が増えます。午後に日が傾くと、日陰の水たまりや濡れた岩は再び冷え始めます。朝に凍っていた日陰の道を、帰りにもう一度通るルートでは、下りでも油断できません。日没が早くなる時期の計画の立て方は、晩秋の日没対策の記事で詳しくまとめています。
場所:北向きの斜面、樹林の日陰、谷や沢沿い
日本の山では、北向きの斜面は日が当たる時間が短く、氷が長く残ります。アメリカ・グランドキャニオン国立公園の冬の登山案内でも、主に北向きのトレイルでは踏み固められた雪や氷に続けて出会いやすく、日の当たる区間では氷が途切れがちだと、斜面の向きと凍結の関係が説明されています。

日本の晩秋の山はここまで雪が多くはありませんが、仕組みは同じです。同じ山でも、南側の登山道は乾いているのに、北側に回り込んだとたんに凍っていることがあります。地図を見るときは、どの区間が北向きの斜面や沢沿いを通るかを確認しておくと、凍結しやすい区間の見当がつきます。
路面:木道、木の根、平らな岩、水がしみ出す場所
同じ気温でも、凍り方は路面によって違います。とくに注意したいのは次のような場所です。
- 木道や木の階段:表面に薄く霜がつくと、見た目は白くても非常に滑りやすくなります
- 木の根や平らな岩:もともと濡れると滑りやすく、表面が凍ると足を置く場所がなくなります
- 水がしみ出している場所や沢の渡り:透明で薄い氷になり、黒く濡れているだけに見えることがあります
- 落ち葉の下:落ち葉で凍った地面や岩が隠れていることがあります
昼は「霜柱のぬかるみ」にも注意
晴れた朝、土の登山道では霜柱が立つことがあります。霜柱は日が当たると融けて、昼前後には土がぬかるみ、今度は泥で滑りやすくなります。凍っている朝と、融けてぬかるむ昼とで、同じ道でも滑り方が変わることを覚えておきましょう。

凍った道の歩き方
基本は「小さな歩幅」と「靴底全体で置く」
凍った道で転ぶ原因の多くは、足を置いた瞬間に靴が前後に滑ることです。次の3つを意識すると、滑ったときにも体勢を立て直しやすくなります。
- 歩幅を小さくする:一歩を短くすると、重心が足の真上から外れにくくなります
- 靴底全体をそっと置く:かかとから強く着地したり、つま先で蹴り出したりすると滑りやすくなります
- 平らな面より、凹凸のある面を選ぶ:氷の上より土や小石が出ている場所、木道なら霜の少ない部分を選んで踏みます
登りと下りで、気をつけることが変わる
登りでは、つま先で蹴り上げるような歩き方をすると、靴が後ろへ滑ります。体を少し前に傾けて重心を前足の上に乗せ、足裏全体で踏みしめるように登ります。
下りは、凍結でいちばん危ない場面です。体が後ろに反ると、かかとが前に滑って尻もちをつきやすくなります。膝を軽く曲げて腰を落とし、重心を足の真上に保つことを意識しましょう。下りは疲れもたまっているので、凍った区間では休憩をとって集中し直すのもひとつの方法です。
ストックは「バランスを助ける道具」として使う
グランドキャニオン国立公園の冬の登山案内では、凍ったトレイルでの足元を助けるものとして、靴に着ける滑り止めとあわせてストック(トレッキングポール)が挙げられています。2本使えば、足と合わせて支点が増え、片足が滑ったときに体を支えやすくなります。
ただし、ストックの先が凍った岩の上で滑ることもあります。体重を預けすぎず、あくまでバランスを補うものとして使いましょう。長さの調整や使い方は、トレッキングポールの選び方の記事で解説しています。
チェーンスパイク・軽アイゼン・10本爪アイゼンの違い
歩き方だけでは対応しきれない凍結には、靴に着ける滑り止めを使います。晩秋の登山でよく話題になるのは、次の3種類です。

チェーンスパイク:凍った緩い道で「念のため」の1組
チェーンスパイクは、ゴム状のバンドで靴を包み、靴底側に短い爪をチェーンでつないだ滑り止めです。モンベルの「チェーンスパイク」の取扱説明書では、冬の低山や夏の雪渓歩行に適した軽アイゼンで、ブーツの上から靴下を履くような感覚で装着でき、底の柔らかいランニングシューズから固い靴まで幅広く対応すると説明されています。
一方で、同じ説明書には「本製品は簡易アイゼンです。本格的な雪山登山には使用しないでください」とはっきり書かれています。山と溪谷オンラインの解説でも、チェーンスパイクは雪団子(靴底に雪が団子状にくっつくこと)がつきやすく、歩行中に外れやすいことが弱点として挙げられています。
晩秋の低山や中級山岳の一般登山道で、霜や薄い氷が出てきたときに備えてザックに入れておく1組目としては、扱いやすい道具です。

軽アイゼン(4〜6本爪):雪が乗り始めた緩い斜面に
軽アイゼンは、土踏まずのあたりに4〜6本の爪がついた滑り止めです。山と溪谷オンラインの解説では、チェーンスパイクより爪が長くてグリップ力に優れ、雪団子を防ぐアンチボーリングプレートがついているため、安心感や使いやすさで勝ると説明されています。
ただし、つま先とかかとには爪がありません。硬く平らな氷の上では、爪の刺さりが浅く、足が前後に傾いて歩きにくく感じることがあります。うっすら雪が積もった道や、締まった雪の緩い斜面で力を発揮するタイプです。
10本爪以上のアイゼン:ここから先は「雪山」
山と溪谷オンラインの解説では、チェーンスパイクと軽アイゼンの使用範囲を超える本格的な雪山登山では、10本爪以上のアイゼンを用意するようにとしています。さらに、標高に関係なく、転倒すると何メートルも滑落する可能性のある区間が1か所でもあれば、10本爪以上のアイゼンを用意するべきだとも述べています。
10本爪以上のアイゼンは、靴との組み合わせ(コバの有無やソールの硬さ)が重要で、歩き方にも練習が必要です。靴とアイゼンの関係は、登山靴のコバの記事で詳しく解説しています。晩秋の高山で雪が積もり始めたら、それは「秋山の延長」ではなく雪山の入口です。装備と経験がそろっていなければ、行き先を変えるのが安全です。

買う前・使う前に確かめたい3つのこと
モンベルの取扱説明書には、安全に使うための注意がまとめられています。チェーンスパイクや軽アイゼンを選ぶときにも、次の3点は確認しておきましょう。
- 靴のサイズに合っているか:対応サイズ外だと本来の性能が出ないおそれがあり、たるんだ状態で使うと木の枝や根に引っかかって転倒するおそれがあるとされています。買うときは、山で履く靴を持って行って合わせるのが確実です
- 毎回点検しているか:爪やチェーンのひび・変形、バンドの破損がないかを使う前に確かめます
- 歩く練習をしたか:同じ説明書では、着けていないときに比べて爪を引っかけて転倒する可能性が高くなるとして、十分な歩行練習を求めています。また、氷雪以外の場所で使うと爪が曲がったりバンドが傷ついたりしやすくなるとも書かれています
いきなり山で初めて着けるのではなく、自宅で一度装着してみて、着け外しの手順と、どれくらい時間がかかるかを確かめておくと安心です。
いつ着ける?いつ引き返す?

着けるのは「凍った区間に入る前の、平らで安全な場所」
滑り止めは、滑りやすい場所に入ってから着けようとすると、片足立ちの作業中にバランスを崩すことがあります。霜が見え始めたら、凍った区間の手前の平らな場所で早めに着けるのが基本です。手袋をしたまま着け外しできるかも、事前に確かめておきましょう。
外すタイミングも大切です。モンベルの取扱説明書にあるとおり、チェーンスパイクなどは氷雪以外の場所で使うと傷みやすく、岩の多い道では引っかかりやすくなります。凍った区間を抜けて、しばらく乾いた道が続くとわかってから外すようにします。
引き返す目安
次のような状況では、先へ進むより引き返すことを考えましょう。
- 滑り止めを持っていないのに、凍った区間が続いている(とくに、これから下る道に凍結があるとき)
- 滑り止めを着けても足が滑る、踏ん張れないと感じる
- 凍った区間で歩くペースが落ち、予定していた引き返し時刻に間に合わない
- 滑った先が崖や急斜面、沢になっている場所が凍っている
- 冬用の靴やウェアではないのに、ルート上に雪が出てきた
最後の項目は、富山県警察の秋山情報で、積雪が予想される場合は冬山用の靴やウェアを着用し、それらの装備を着用していない場合でルート上に雪が出てきたときは必ず引き返すよう呼びかけている内容です。凍結や積雪で歩くのに時間がかかると、晩秋は日没も早いため、行動時間の余裕は一気になくなります。
滑り止めとあわせて持ちたいもの
凍結する朝の山は、そのぶん気温も低くなっています。滑り止めだけでなく、寒さと暗さへの備えもセットで考えましょう。
- 手袋(予備も):凍った岩やロープ、鎖をつかむとき、転んで手をついたときに手を守ります。滑り止めの着け外しも手袋をしたまま行えると安全です
- 防寒着と帽子:凍った区間でゆっくり歩くと、体が温まりにくくなります。重ね着の考え方はレイヤリングの記事、寒さで起こる体のトラブルは秋山の低体温症の記事を参考にしてください
- ヘッドライト:凍結で行動が遅れると、下山が日没に近づきます。日帰りでも必ず持っていきます
- ツェルト:転倒してけがをし、救助を待つことになったときに、風や冷えから体を守ります。使い方はツェルトの記事で解説しています
- 靴底の溝が残った登山靴:すり減った靴底は、凍結していなくても滑りやすくなります。靴の選び方は登山靴の選び方の記事を参考にしてください
出発前の5つの確認
最後に、晩秋の山へ出かける前に確認しておきたいことを整理します。
- 登山口と山頂付近の朝の気温:麓の予報から100mにつき0.5〜1℃引いて考え、3℃前後なら地面の凍結を想定する
- 前日の天気:雨のあとに晴れて冷え込む朝は、濡れた路面がそのまま凍りやすい
- 北向きの斜面・沢沿い・木道がどこにあるか:地図で凍りやすい区間の見当をつけておく
- 山小屋や自治体、警察の最新情報:初冠雪や凍結の情報が出ていないか、山小屋の営業が終わっていないかを確かめる
- 滑り止めがザックに入っているか、靴に合うか:自宅で一度着けて、サイズと着け外しの手順を確かめておく
紅葉の終わりから初冠雪のころの山は、空気が澄み、遠くの山まで見渡せる美しい季節です。足元の凍結を前提に準備を整えて、安全に晩秋の山を楽しみましょう。
参考リンク
- 気象庁「予報用語 気温、湿度」
- 気象庁「平年値(年・月ごとの値)長野」
- 気象庁「平年値(年・月ごとの値)軽井沢」
- 気象庁「平年値(年・月ごとの値)富士山」
- 長野地方気象台「春の特徴」(霜と放射冷却の解説)
- 長野県警察「令和8年 秋山情報」(PDF)
- 富山県警察「富山県警察秋山情報2025」
- 警察庁「令和7年における山岳遭難の概況等」(PDF)
- モンベル「チェーンスパイク 取扱説明書」(PDF)
- 山と溪谷オンライン「【初心者向け】チェーンスパイクの基礎知識。軽アイゼンとの違いは? 雪山にはどこまで使える?」
- National Park Service「Winter Hiking - Grand Canyon National Park」(英語)
最終更新: 2026年10月12日 23:42
執筆・確認
山日記編集部
実際の山行記録や公的機関・自治体の最新情報をもとに、登山ルート・装備・安全対策をわかりやすく整理して発信しています。 登山道・交通・施設情報は変わるため、記事公開後も必要に応じて更新し、最新確認先も案内しています。
