
写真:ImGz, Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0)
シャリバテとは?症状と原因、行動食の量とタイミング|コース定数で消費カロリーを見積もる方法と、なったときの回復法【晩秋の山の注意つき】
登山中に急に足が動かなくなる「シャリバテ」は、エネルギー(糖質)の不足で起こる疲労です。症状と似ている不調の見分け方、山本正嘉さんらの式で山行の消費カロリーを見積もる方法、行動食を食べる量とタイミング、寒くて食べなくなる晩秋の注意、なってしまったときの回復の手順を、警察庁の統計やメーカー公式の栄養成分をもとにまとめました。
目次
登山中、さっきまで普通に歩けていたのに、急に足が前に出なくなる。頭がぼんやりして、地図を見ても考えがまとまらない。そんなときに疑いたいのがシャリバテです。
「シャリ」は山の言葉でご飯のこと、「バテ」は疲れ切ることで、食べる量が足りずにエネルギーが切れた状態を指します。自転車やマラソンでいう「ハンガーノック」と同じ考え方です。
先に要点を3つだけ書いておきます。
- 山行で使うエネルギーは、ふつうの日帰りでも1,000〜2,000kcal前後になる。昼ご飯1回では足りない
- おなかが空く前に、休憩のたびに少しずつ食べる
- 寒い季節ほど食べなくなりやすい。すぐ口に入る形で、取り出しやすい場所に入れておく
「疲労」の遭難は5年で約2倍
警察庁の統計では、2025年(令和7年)の山岳遭難者3,623人のうち、「疲労」によるものが356人(9.8%)でした。2020年(令和2年)の170人から、5年で約2倍に増えています。
疲労の原因はシャリバテだけではありませんが、食べる量が足りないと疲れは早く来ます。疲れて歩くペースが落ちると下山が遅れ、日没や冷え込みが重なって、転倒や道迷いにもつながります。食べることは、体力に自信のある人にも欠かせない安全対策です。
シャリバテの症状と、似ている不調の見分け方
シャリバテでよく言われる症状は次のとおりです。
| 症状 | どんな感じか |
|---|---|
| 急な脱力 | 足が重くなり、一歩ずつがつらい。登りで急にペースが落ちる |
| ふらつき | 足元がおぼつかず、つまずきやすくなる |
| 集中力・判断力の低下 | 分岐を見落とす、地図が読めない、考えがまとまらない |
| 手の震え・冷や汗 | 体に力が入らず、汗が冷たく感じる |
| 強い空腹感、または食欲がない | 空腹を通り越して、逆に食べたくなくなることもある |
特にこわいのは判断力の低下です。自分では「疲れただけ」と思っていても、分岐を見落としたり、足を置く場所を誤ったりしやすくなります。
山では、似た症状の不調がいくつかあります。見分けのヒントを並べると次のようになります。
| 不調 | 起こりやすい場面 | 見分けのヒント |
|---|---|---|
| シャリバテ | 長い登り、食べずに歩き続けたとき | 食べて休むと、しばらくして楽になることが多い |
| 脱水 | 暑い日、汗を多くかいたのに飲んでいないとき | のどの渇き、尿の色が濃い・少ない |
| 低体温症 | 濡れた体で風に当たる、気温が低いとき | 震えが止まらない、手先が動かない。秋〜冬の稜線で特に注意 |
| 高山病 | おおむね標高2,500m前後より高い山 | 頭痛、吐き気。食べても治らず、高度を下げると楽になる |
どれも一つだけで起きるとは限りません。晩秋の山では、食べていない・汗で濡れている・風が冷たいが重なって、シャリバテと低体温症が同時に進むこともあります。食べて休んでも良くならないとき、震えが止まらないときは、無理をせず引き返し、必要なら救助を求めます。低体温症については「秋山の低体温症」で詳しく解説しています。
糖尿病の薬やインスリンを使っている人は、運動中の低血糖が別の意味で危険になることがあります。登山での補食や薬の調整は、主治医に相談してから計画してください。
なぜエネルギーが切れるのか
体を動かすエネルギー源は、主に糖質(炭水化物)と脂質です。歩く強さが増すほど、筋肉にためた糖質(グリコーゲン)の使われる割合が大きくなります。グリコーゲンの貯えには限りがあり、減ってくると同じペースで歩き続けるのが難しくなります。
登山は、重い荷物を背負って何時間も坂を上り下りする運動です。朝ご飯を抜いた、昼まで食べずに登った、思ったより時間がかかって行動食が尽きた、という条件がそろうと、エネルギーが足りなくなります。
よくある原因をまとめると、次のとおりです。
- 朝食を食べない、または軽すぎる
- 「山頂で食べよう」と、登りの間ずっと食べない
- 飲み物だけで、食べ物を口にしない
- コースタイムより遅れて、行動食が足りなくなる
- 寒さや疲れで食欲がなく、食べられない
その山行で使うエネルギーを見積もる

鹿屋体育大学の山本正嘉さんらは、登山で使うエネルギーを求める式を考えています。
消費エネルギー(kcal)= コース定数 ×(体重+ザックの重さ)
コース定数 = 1.8×行動時間(h)+ 0.3×歩行距離(km)+ 10.0×上りの累積標高差(km)+ 0.6×下りの累積標高差(km)
たとえば体重60kgの人が5kgのザックを背負い、行動6時間・距離10km・上り下り各1,000mの山を歩くと、コース定数は24.4、消費エネルギーは約1,590kcalです。もっと簡単には「体重(kg)× 行動時間(h)× 5」でもおおよその値が出せます(軽装で標準的なコースタイムで歩く場合)。
山本さんは、この式で出る値は、歩きやすい道を良い天気のもとで歩いたときの下限の目安だとしています。道が悪い、寒い、風が強い、荷物が重い日は、さらに多くのエネルギーを使います。
コース定数は、YAMAPなどの登山地図アプリや、長野県などの「山のグレーディング」の体力度にも使われています。歩く予定のコースの値を調べて、体重と荷物の重さを掛けてみると、持っていく食べ物の量が具体的に考えられます。
1,590kcalは、行動食に置きかえるとどれくらい?
| 食べ物 | 1個あたり | 1,590kcalに相当する量 |
|---|---|---|
| カロリーメイト ブロック(1本20g) | 100kcal | 約16本 |
| スポーツようかん あずき(40g) | 116kcal | 約14本 |
| inゼリー エネルギー(180g) | 180kcal | 約9袋 |
栄養成分は各メーカーの公式表示によります。消費したぶんを山の上ですべて食べきる必要はありませんが、朝食、昼食、行動食を合わせて、使う量に近づけるつもりで準備すると、エネルギー切れを起こしにくくなります。
いつ・どれくらい食べるか
長野県警は、行動中はこまめに休憩を取り、意識して水分やカロリーを補給するよう呼びかけています。具体的なタイミングの目安は、次のように考えると実行しやすくなります。
| タイミング | 食べるもの・量の目安 |
|---|---|
| 前日の夕食 | ご飯や麺など、炭水化物をしっかり |
| 朝食(出発の1〜2時間前) | おにぎり、パン、うどんなど消化のよいもの。抜かない |
| 歩き始めて1時間前後の最初の休憩 | 空腹を感じていなくても、ひと口食べる |
| その後の休憩ごと | 100〜200kcalくらいずつ(カロリーメイト1〜2本ぶん) |
| 山頂・昼 | おにぎりやパンなど、少ししっかりめに |
| 下り始め | 下りもエネルギーを使う。最後のひと口をここで |
持っていく量は、予定の行動時間より長くなっても困らないよう、少し多めにします。下山が遅れたときや、道を間違えて歩く時間が延びたときの予備にもなります。

行動食の選び方
行動食は「すぐに口に入る」「必要なエネルギーがとれる」「持ち歩きやすい」の3つで選びます。すぐエネルギーになるものと、腹持ちのよいものを組み合わせると、山行全体を通して切らしにくくなります。
| タイプ | 例 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| すぐエネルギーになる | 羊羹、ゼリー飲料、ジェル、ラムネ、グミ、バナナ | 登りの途中、疲れてきたとき、シャリバテの気配を感じたとき |
| 腹持ちがよい | おにぎり、パン、カロリーメイト、クッキー、ナッツ | 山頂や長めの休憩、長時間の山行 |
| 水分と一緒にとる | スポーツドリンク、温かい甘い飲み物 | 汗をかいたあと、寒い日の休憩 |
選ぶときのポイントは次のとおりです。
- 片手で食べられる:ザックを下ろさずに口に入れられると、こまめに食べやすい
- 疲れていても食べられる:のどを通りやすいもの、自分が好きな味を必ず1つ入れる
- 季節に合わせる:夏はチョコレートが溶けやすく、冬はゼリーや飲み物が冷えて固くなりやすい
- 小分けにする:大袋のナッツやお菓子は、出発前に1回分ずつ袋に分けておく

すぐエネルギーになるもの
井村屋 スポーツようかん あずき
スポーツ向けに作られた羊羹で、1本40gで116kcal。片手で押し出して食べられる包装で、ポケットに入れておきやすい定番の行動食です。
森永製菓 inゼリー エネルギー
1袋180gで180kcal。疲れて固形物を食べたくないときでも、飲むように口に入れられます。寒い時期は冷えると飲みにくくなるので、ザックの中のほうやポケットに入れておくと扱いやすくなります。
エナジージェル(メダリストなど)
トレイルランニングでよく使われる、少量でエネルギーをとれるジェルです。1袋が小さく、登りの途中で手早く口に入れたいときに便利です。

腹持ちがよいもの
大塚製薬 カロリーメイト ブロック
1本20gで100kcal(4本入りで400kcal)。軽くて日持ちし、エネルギーの計算がしやすい行動食です。口の中の水分を取られやすいので、飲み物と一緒に食べます。

ほかに、ナッツ、クッキー、エナジーバーなども腹持ちのよい行動食です。ナッツは脂質が多く、少量でエネルギーがとれます。
飲み物も一緒に考える
汗をかいた日は、水だけでなく塩分もとれるスポーツドリンクが役に立ちます。粉末タイプなら荷物を軽くできます。ただし、低カロリーに作られた飲み物はエネルギー源としては少ないので、行動食は別に用意します。
ポカリスエット イオンウォーター パウダー
1本で180ml分を作れるスティックタイプの粉末。水に溶かして、水分と塩分の補給に使います。
晩秋〜冬の山で、シャリバテが起きやすい理由
10月後半から冬にかけては、夏とは違う理由で食べる量が減りがちです。
- 寒くて休憩が短くなる:風の強い稜線では、立ち止まって食べる時間を取りにくい
- 手袋で包装を開けにくい:取り出すのが面倒で、食べるのを後回しにしてしまう
- のどが渇きにくい:冷たい水を飲む量が減り、一緒に食べる量も減る
- 日が短い:日没を気にして休憩を削り、食べずに歩き続けてしまう
対策は、行動食をすぐ手が届く場所に入れておくことです。ザックの雨蓋、胸やウエストのポケットに、1回分ずつ包装を開けやすくした行動食を入れておくと、短い休憩でも食べられます。温かい甘い飲み物は、寒い日の休憩で体を温めながらエネルギーもとれます。保温ボトルの使い方は「晩秋の山は「お湯」を持っていく」で解説しています。
日の短い季節は、休憩を削らなくて済むよう、出発時刻を早めて計画します。日没から逆算する考え方は「晩秋の登山は日没に注意」にまとめています。
シャリバテになってしまったら
- 安全な場所で止まる:岩場や狭い道を避け、風の当たらない場所でザックを下ろす
- すぐエネルギーになるものから食べる:ゼリー飲料、羊羹、ラムネ、甘い飲み物など
- しばらく休む:食べてすぐに元どおりにはならない。体が冷えないよう上着を着て待つ
- 腹持ちのよいものも食べる:楽になってきたら、おにぎりやパンなどを追加する
- ペースを落として再開する:元の速さに戻さず、休憩を多めにして歩く
食べて休んでも回復しない、震えが止まらない、頭痛や吐き気が強い場合は、シャリバテ以外の不調も考えられます。予定にこだわらず引き返し、動けないときはためらわずに救助を求めてください。同行者がシャリバテになったときは、食べ物を分けられるよう、自分の分より少し多めに持っておくと安心です。
参考リンク
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最終更新: 2026年10月15日 01:03
執筆・確認
山日記編集部
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