
写真:Yoky, Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)/ダウン(羽毛の綿毛)
晩秋の山の防寒着の選び方|ダウンと化繊綿の違い、「ダウン90%」「フィルパワー」の読み方、休憩で着るタイミングと濡らさない持ち方
10月下旬から11月の山では、歩いている間は暑くても、山頂や休憩で止まった途端に体が冷えます。そのとき着る防寒着(保温着)を、ダウンと化繊綿の違い、タグの「ダウン90%・フェザー10%」の意味、フィルパワー(FP)とダウンパワー(dp)の違い、晩秋の日帰りでの選び方、着るタイミング、ザックの中で濡らさない持ち方と保管の順に、消費者庁や試験機関、メーカーの公開情報をもとに整理します。
目次
先に結論|晩秋のザックには「止まったときに着る1枚」を入れる
晩秋の日帰り登山では、防寒着は「寒い日に着ていく服」ではなく、止まったときに着るための服と考えると選び方がはっきりします。ポイントは次の3つです。
- 濡れそうな日は化繊綿、濡れる心配が少ない日はダウン:ダウンは軽く小さくたためますが、濡れるとふくらみを失います。化繊綿は濡れても保温力が落ちにくい素材です
- タグの数字は「中身の割合」と「ふくらむ力」:「ダウン90%」は羽毛の中身の割合、「800FP」はふくらむ力の目安で、どちらも暖かさそのものを示す数字ではありません
- 寒くなる前に着て、歩き出す前に脱ぐ:休憩に入ったらすぐに着て、出発の直前に脱ぎます。ザックの中では防水の袋に入れておきます

重ね着全体の考え方は登山の服装(レイヤリング)完全ガイドにまとめています。この記事では、その中の「保温着(インサレーション)」1枚に絞って、選び方と使い方を詳しく見ていきます。
防寒着が必要になるのは「止まった瞬間」から
長野県の令和8年の秋山情報は、「秋は日が短く、冷え込みます。万一に備え、防寒着やヘッドライト、食料等を携行してください」と呼びかけています。同じ資料では、秋山は昼間が暖かくても朝晩は氷点下になることがあり、北アルプスなどの高山では雨が雪に変わることも珍しくないこと、風速が1m上がると体感温度が1℃下がることも注意点として挙げられています(長野県 令和8年 秋山情報)。
登りの間は体が熱を作るので、晩秋でも薄着で汗をかくことがあります。冷えるのはそのあとです。
- 山頂や峠に着いて、汗をかいたまま風に当たる
- 昼食や写真撮影で10分、20分と動かずにいる
- 道を確認したり、同行者を待ったりして立ち止まる
- ケガや道迷いで、予定外に長くその場にとどまる
こうした場面では、フリースやソフトシェルだけでは保温が足りないことがあります。麓の気温から山頂の気温と体感温度を見積もる方法は初冠雪のニュースが出たら|晩秋の山の天気の読み方で、冷えが進んだときの体の変化は秋山の低体温症で解説しています。
ダウンと化繊綿|暖かさの仕組みは同じ「動かない空気」
ダウンも化繊綿も、暖かさの元は繊維のすき間にためた動かない空気です。モンベルの担当者に取材した記事でも、防寒着で暖かく感じるには空気の層をできるだけ多く体のまわりに保つことが大切だと説明されています(ソトラバ「モンベルに聞く、防寒ウェアの基礎知識」)。
違いが出るのは、重さあたりの暖かさと、濡れたときの強さです。
| 比べるところ | ダウン(羽毛) | 化繊綿(ポリエステルなど) |
|---|---|---|
| 重さあたりの暖かさ | 高い。品質のよいダウンほど少ない量で厚みが出る | ダウンより重くなりやすい |
| 収納のしやすさ | 小さくたためる | ダウンよりかさばりやすい |
| 濡れたとき | ふくらみがなくなり、保温力が大きく落ちる | 保水しにくい繊維なら、ふくらみと保温力を保ちやすい |
| 乾きやすさ・手入れ | 専用洗剤と十分な乾燥が必要 | 乾きやすく、家庭で洗いやすい |
| 向いている使い方 | 濡れにくい状況での休憩、早朝や山頂での待ち時間 | 汗をかく行動中、雨や霧の多い日、濡れが心配な日 |
モンベルは、化繊綿「エクセロフト」について、保水しないポリエステル繊維のため、行動中に汗や雨で濡れてもロフト(かさ高さ)を損なわず保温力を保ち、速乾性もあると説明しています(モンベル 独自の化繊綿「エクセロフト」)。同じ取材記事では、羽毛は濡れるとボリュームがなくなることにも触れ、汗をかいたり雨で濡れたりしやすい山登りでは、化繊綿のほうがおすすめとしています(ソトラバ「モンベルに聞く、防寒ウェアの基礎知識」)。

タグの「ダウン90%・フェザー10%」は中身の割合
ダウンジャケットの洗濯表示の近くには、「ダウン90%、フェザー10%」のような表示があります。これは家庭用品品質表示法にもとづく繊維製品品質表示規程で決められた表示で、詰め物を使ったコートや上衣では、表生地・裏生地とあわせて詰め物の繊維の組成を表示することになっています(消費者庁 繊維製品品質表示規程)。
羽毛の表示に使える言葉は、ダウンに当たるものは「ダウン」、それ以外は「フェザー」または「その他の羽毛」と決められています(消費者庁 繊維の名称を示す用語)。ダウンは芯のない綿毛、フェザーは芯(羽軸)のある羽根です。ダウンの割合が多いほど、ふくらみやすく軽い中身になります。
数字には許される誤差もあります。消費者庁の解説では、混用率が5の倍数(100%を除く)で表示されている場合、実際の値との差は±5%以内まで認められています(消費者庁 繊維製品の表示について)。試験機関のカケンテストセンターは、JIS L 1903の試験でダウンが91.5%だった例を「ダウン90%、フェザー10%」などと表示できると紹介しています(カケンテストセンター 羽毛の組成混合率)。
つまり、「ダウン90%」と「ダウン85%」の差は、タグの数字ほど大きくない場合もあります。この数字は中身の質の目安のひとつで、これだけで暖かさの順番は決まりません。
「フィルパワー」と「ダウンパワー」は別の物差し
ダウンの品質を表す数字には、ダウンジャケットでよく見る「フィルパワー(FP)」と、羽毛ふとんでよく見る「ダウンパワー(dp)」があります。どちらも羽毛がどれだけふくらむかを測った数字ですが、測り方が違います。

品質試験機関のQTECによると、フィルパワーは国際羽毛協会の試験方法(IDFB Part10)で測る値で、羽毛30gが何立方インチにふくらむかを表します。「FP600」なら、30gの羽毛が600立方インチにふくらむという意味です。一方、ダウンパワーはJIS L 1903の試験で測る羽毛1gあたりの体積(cm³)で、試験の手順も単位も違うため、数値をそのまま比べることはできません(QTEC かさ高性試験(ダウンパワー・フィルパワー))。

数字の目安は次のとおりです。
| 表示 | どこで見るか | 公開されている目安 |
|---|---|---|
| フィルパワー(FP) | ダウンジャケット、寝袋 | モンベルは「一般的には550〜700FPが良質ダウン」とし、同社のEXダウンは800〜1000FP |
| ダウンパワー(dp) | 羽毛ふとん | 日本羽毛製品協同組合のゴールドラベルは300dp以上から。440dp以上が最上位のプレミアムゴールド |
出典:モンベル 最高品質「EXダウン」、日本羽毛製品協同組合 ゴールドラベル
ここで大事なのは、モンベル自身が「フィルパワーが高ければ暖かい」とは限らないと説明している点です。フィルパワーは軽さ・コンパクトさの目安で、暖かさそのものは、入っているダウンの量や生地の構造との組み合わせで決まります(モンベル 最高品質「EXダウン」)。同じ800FPでも、薄手のインナーダウンと厚手のパーカでは暖かさがまったく違うということです。
暖かさを比べたいときは、メーカーが示している「薄手・中厚手・厚手」といった区分や、用途の説明を見るのが近道です。モンベルは「薄手・中厚手・厚手・極厚手」の指標で分けていて、厚手になるほど保温性が高くなるとしています(モンベル 最高品質「EXダウン」)。

晩秋の日帰り登山で選ぶ順番
ここまでの違いをふまえて、10月下旬から11月の日帰り登山で防寒着を選ぶときは、次の順番で考えると迷いにくくなります。

場面ごとにまとめると、次のようになります。
| 場面 | 選び方の目安 | あわせて持つもの |
|---|---|---|
| 晴れた日の低山(樹林帯が中心) | 薄手のダウンか化繊綿。フリースで足りる日もある | レインウェア(防風の上着を兼ねる) |
| 山頂や稜線で風を受ける山 | 中厚手。上にレインウェアを重ねられるサイズ | 手袋・帽子 |
| 早朝出発、車中泊明け | 中厚手のダウン。登山口での待ち時間や朝の休憩で着る | 保温ボトルの温かい飲み物 |
| 雨や霧の予報、汗をかきやすい人 | 化繊綿を優先 | 着替えの肌着、防水の袋 |
防寒着を上から覆う上着は、多くの場合レインウェアで兼ねられます。選び方は登山レインウェアの選び方、指先の冷え対策は晩秋の登山の手袋、温かい飲み物の持ち方は晩秋の山は「お湯」を持っていく、登山口での夜明けの冷え込みは晩秋の登山口で車中泊するときの寒さ対策で詳しく解説しています。
着るタイミング|寒くなる前に着て、歩き出す前に脱ぐ
防寒着は、持っていても着るのが遅れると効果が小さくなります。体が冷え切ってから着ても、温まるまでに時間がかかるからです。
| タイミング | すること | 理由 |
|---|---|---|
| 山頂・休憩地に着いたら | 腰を下ろす前に、すぐ着る | 汗が冷え始める前に、体のまわりの暖かい空気を逃がさない |
| 風が強いとき | 防寒着の上にレインウェアを重ねる | 風が当たると、保温着の中にためた暖かい空気が奪われやすくなる |
| 出発の直前 | 歩き出す前に脱いでしまう | 着たまま登ると汗で中から濡れ、次の休憩で冷える原因になる |
| 予定外に止まったとき | ケガや道迷いでは、ためらわずに着る | 動けない時間が長いほど体温が下がる |
汗をかいたまま止まると、肌着の濡れが体温を奪います。肌に触れる1枚の選び方は登山用速乾性インナーはなぜ必要?で解説しています。また、晩秋は日没が早く、下山が遅れると気温が一気に下がります。行動計画の立て方は晩秋の登山は日没に注意を、動けなくなったときの備えはツェルトとは?を参考にしてください。
濡らさない・つぶしっぱなしにしない|持ち運びと保管
ザックの中では防水の袋に入れる
ダウンは濡れるとふくらみがなくなり、保温力を失います。ザックカバーをしていても、雨や汗、結露でザックの中は湿ることがあります。防寒着は防水のスタッフバッグや厚手のビニール袋に入れてからしまいましょう。いざというときに取り出しやすいよう、ザックの上のほうに入れておくのもポイントです。
帰宅したら袋から出して干す
羽毛のふくらむ力は、長期間の保管や圧縮で下がることがあります。羽毛の試験機関IDFLも、ダウンのふくらむ力は長期保管や圧縮輸送などで低下する場合があると説明しています(IDFL スチームジャパン充填力試験方法)。山から帰ったら収納袋から出し、湿気を飛ばしてから、ゆったりした状態で保管しましょう。
汚れたら洗う
汗や皮脂の汚れは、ふくらみを保つうえでもよくありません。モンベルは、専用洗剤と乾燥機つきの洗濯機を使えば家庭でもダウン製品を洗えるとしています(モンベル 最高品質「EXダウン」)。洗う前には、必ず製品についている洗濯表示を確認してください。化繊綿の製品は乾きやすく、家庭でも洗いやすい素材です(モンベル 独自の化繊綿「エクセロフト」)。
出発前のチェック
- 防寒着は「止まったときに着る1枚」としてザックに入っているか
- 雨や霧の予報なら、化繊綿を選ぶか、ダウンを確実に濡らさない用意があるか
- 防水の袋に入れ、ザックの上のほうに入れたか
- 上に重ねるレインウェア、手袋、帽子もそろっているか
- 休憩に入ったらすぐ着て、出発前に脱ぐことを同行者とも共有したか
参考リンク
執筆・確認
山日記編集部
実際の山行記録や公的機関・自治体の最新情報をもとに、登山ルート・装備・安全対策をわかりやすく整理して発信しています。 登山道・交通・施設情報は変わるため、記事公開後も必要に応じて更新し、最新確認先も案内しています。
